2007.08.28 Tuesday
瀬戸内寂聴は小説家から出家したが、玄侑宗久は臨済宗の僧侶でありながら芥川賞を受賞し小説家になった。ふたりの有り様は逆だが現役の出家者で小説家ということに変わりはない。ユニークなふたりが「信仰生活をしている人にしか、わからないこと」を対談するのだから尚更興味をそそられる。空海は天才で、最澄は秀才で実直で、法然は誠実で、親鸞は煩悩だというユーモア溢れ、核心を鷲掴みにする会話にふたりの話力を観る。「自らを拠りどころとし、それ以外を拠りどころとしてはいけない」と釈迦が言うのに対して、新興宗教の教祖は「私を拠りどころとしなさい」と言うことに僧侶の眼力は鋭くなる。「愛欲の悩みをどうするか」「不慮の死をどうやって受けとめるか」など小説家であり僧侶ならではの人間愛の深さが浮沈し面白さを加速させている。
編集長 尾中謙文

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2007.08.27 Monday
フリーマン・ダイソンは未来の科学に警告できる比類なき科学者だ。科学技術がイデオロギーと合体すると、人類や地球の未来に危険度が増すことを高い倫理観で喚起し続けている。科学と人間の進化が地球にもたらすものについて「ガイアの素顔」でも述べていたが、ダイソンは10年から100万年のスケールで考えている。この巨視観は、科学技術が今後、進化の過程で生命倫理と否応無く重なることを考えると、利益をもたらす科学だけを追い続ける応用科学者には立ち打ちできない。科学的な公平さと人間の苦悩を同時に考え、新しい科学、新しい発見を予測し、豊かな洞察力から遥かな未来を予見する。ダイソンはすぐに役に立たないが人間に必要な純粋科学と、利益至上になりがちな応用科学の両方の本質をわかりやすく本書で示唆している。
編集長 尾中謙文

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2007.08.23 Thursday
以前「この国のけじめ」を紹介した藤原氏は、お茶の水女子大学の教授であり数学者である。本書で登場する天才数学者たちはいずれも深い孤独や失意に苛まれる。苦悩の連続の中でさまざまな難問に挑む姿は、天才が栄光を掴むサクセスストーリーというより、天才が生身の人間であるがゆえの苦しさを浮き彫りにしている。例えばニュートンは3歳の時に母親に置き去りにされているし、江戸時代に和算の大家といわれた関孝和が算聖と崇拝されたのは、実に死後30年経ってからだった。藤原氏は同業の天才を克明に観察し、どん底にいる天才がどうやって壁を乗り越えたのか、尊厳と品格をもって数学者の原点に迫っている。ちなみに映画にもなった「博士の愛した数式」を執筆するきっかけになったのは本書にあったと小川洋子氏は言っている。
編集長 尾中謙文
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2007.08.21 Tuesday
高騰を続ける土地狂騒で、フツーのサラリーマンがフツーに働いて都心に理想の一戸建てを建てることはもはや不可能に近い。住宅リフォームといいながら、ほとんど造り変えてしまうTV番組「ビフォー・アフター」を観て、狭小住宅も素敵だと感じた方も多いのではないか。ただ「都心に住みたい」という熱意だけが、驚嘆するほど狭い空間を奇跡的に住みやすく変えたり、土地に執着する不器用な愛情が建築家の気持ちを動かし、見たことも無いような小さく美しい家を造ったりする。本書はそんな狭小住宅を、いつか都心に建てようと狙っている方に勇気を与えてくれる。わずか8坪に満たない土地に素晴らしい家を建てたり、1億5千万円もする見積もりを6100万円に値切ったりするなど、度胸のいい人と「ありえない家」が登場する。狭小住宅には建築技術の粋を結集した建築家の英知と、狭い東京に住み続けたい人間のドラマが交錯している。
編集長 尾中謙文
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2007.08.17 Friday
最近の国会議員の言動や生き様を観ると、本当に日本を良くしたいために議員になったのか疑わしい人が増えた。本来品格の模範となるはずの議員が犯罪に手を染めたり、タレント化しバラエティ化し品格のない言動行動をしていることなどもそうだ。白州次郎は以前にも紹介したが、僕が敬愛して止まない人物の一人だ。それは白州の「育ちのいい野蛮人」といわれる人柄である。ケンブリッジで学んだ礼儀正しい紳士だが、卑劣な態度を取る相手にはどんなに地位が高い相手にも猛然と立ち向かう勇気を持っていた。天皇の名代で届けものを持って来た白州に、マッカサーが天皇を蔑ろにした態度を取ると、届け物を持ち帰ろうとした話は有名だ。「プリンシプル」とは何か。白州の言葉を要約すると、すべての言動行動には首尾一貫した納得のいく正当な理由がないといけないということだろうか。真実や原理原則が甚だ希少になった今、本書を読み返す度にほっとするのは僕だけだろうか。
編集長 尾中謙文
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2007.08.16 Thursday
本書は世界征服を目指す人のために書かれた学問書だ。古くはアレキサンダー大王やジュリアスシーザー、秦の始皇帝、チンギスハーン。最近ではヒトラーが真剣に世界征服を狙っていたことを考えると、歴史が繰り返す可能性は大だ。世界征服の支配者には「魔王」「独裁者」「王様」「黒幕」の4タイプがあるのだそうだ。ちなみに魔王タイプは、自分は正義の味方で悪を憎む「人類絶滅型」でもある。思いあたる節のある方もいるのではないか。世界征服にはお金がかかる。秘密基地を作ったり武器を買ったりしなければならない。本書では「資金調達と設備投資」や「後継者問題」についても指南している。信じこむと危険だが、やわらかアタマを鍛えたい向きにはクスリと笑える発想転換本だ。
編集長 尾中謙文
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2007.08.13 Monday
冷戦終結後、各国が軍縮に向かった結果、軍事業務を代行する会社が出て来た。世界中で経験豊富な一個師団を迅速に派遣してくれる。戦争も民営化の時代になったのだ。老人介護の派遣で騒ぎ「国民のために改憲する」などと眠いことを言っている国はもっと冷静に考えたほうがいい。アブグレイブ刑務所で捕虜虐待をしたのも、イラク戦争での2万人に及ぶ軍事要員も、派遣された兵士だ。それだけではない。ミサイル発射台やクウェート砂漠のドーハ基地の建設、F117ステルス戦闘機、アパッチ攻撃ヘリコプター、F15戦闘機、U2偵察機などの高度兵器の維持管理、同盟軍の支援など戦争請負企業の範囲は拡大する一方だ。何故か。戦争ビジネスは儲かるからだ。今世界で何が起きているのか、若者は冷静に客観的にあらゆる情報を集め事実を知ったほうがいい。極限状況で自分自身の判断力を高めるためだ。ボランティアで戦争に関わる人はなおさらだ。このまま政府や政治家にまかせておくと世界が多極化する中、有事のとき後悔する日がくるかもしれない。
編集長 尾中謙文
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2007.08.10 Friday
生物と無生物を識別するものは何か。著者は遺伝子のDNA二重ラセンの対構造にあるという。DNAの二重ラセンはフィルムのポジとネガの関係のように互いに自己複製をする能力がある。例えば人が怪我をしても、たいしたことのない傷であればすぐに治ってしまうのは何故か。生命はパーツやピースが欠けても何らかの方法でバックアップ機能が働き欠落を埋め合わすが、プラモデルが壊れても自らが自動的に直すことはできない。このダイナミズムこそが生物の特徴なのだと著者はいう。それは食物を食べ、身体に入れた分子が一端は全身に散らばるが、やがて身体から出ていく「動的な平衡状態」も同様だ。本書は今まで考えてもみなかった角度から様々なエピソードが現れ、最後まで「生命とは何か」という知的好奇心のテンションが落ちることはない。
編集長 尾中謙文
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2007.08.09 Thursday
コルビジェは都市計画をつくる時、人間生活の諸機能より遥かに高い目標である「生きる喜び」がなければいけないと言っている。1922年に人口300万人の現代都市構想を掲げ、1952年にマルセイユのアパートを具現化した。コルビジェは高層アパートを造ることによってできた空地を公園にすることで、人間らしい尊厳のある生活と太陽・空間・緑など自然との調和を目指した。都市には「本質的な快適さ」が必要で、これがだれの手にも届くところに無いと、疲労と消耗が死ぬまで続き、衰退や社会的危機につながると警告している。東京の人口は1264万人、東京圏で3400万人以上もいる。CO2濃度増加と温暖化は解決していない。東京は「輝く都市」なのか。建築家と都市計画に関わる人達の使命とはいったい何なのだろうか。
編集長 尾中謙文
Text by onaka
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2007.08.08 Wednesday
風景は形態を知覚して得た情報と、記憶から脳によって創られた情報とで構成されている。これを著者は「知覚の図式」と呼んでいる。最高の形態である「文化」は、現実の領域から練り上げられ、想像上の領域を生み出し、芸術・宗教・科学に図式化される。風景は歴史的背景と物質的社会的背景が結びつき、さらに地政学的な要因などにより、環境を形成しながら生まれる。「日本の風景」は様々に複雑な風土がありながら、日本人の心の中の原風景がある種の共通性を持つのは、脳が知覚の図式化により、共通の原風景を造り出しているからだ。次の「日本の風景」が経済優先のものになるか生活環境優先のものになるか、都市集中・地方過疎が想像を超える早さで進行する中、鍵はわずか2000万人の20歳以下の若者にかかっている。
編集長 尾中謙文
Text by onaka
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