2007.07.30 Monday
不確定要素の多い現実で、人は何を根拠に直感的な判断を下しているのだろうか。キーワードは「ヒューリスティックス」にある。結果が必ず正解になるアルゴリズムに対して、「ヒューリスティックスは、常に正解に至るわけではないが、多くの場合、楽に速く正解を見つけられる」つまり人が経験値から得たものをうまくやって、良い結果が得られるショートカットがこれだ。達人ほど集中するポイントをきちんと押さえているため、直感的で素早くロスが無い。これは人口知能には無い領域で、コンピュータ万能の時代で、人をいかに生かすかという未来学を考える上でも重要だ。「不確かな状況で、人間がどんな推論過程を経て何らかの判断を下すかという、非常に広い領域を視野に入れたものである」視野が狭く文脈を感じ取れない日本人が増えている一方で、マクロに通じ、直感が働く人はますます減っていくのだろうか。
編集長 尾中謙文
Text by onaka
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2007.07.27 Friday
竹村氏の言葉は限りなく美しい。それでいて核心をみごとに射ぬいているから、読後に清涼が残る。本書は人間と植物の共生について書かれた文明論だ。「宇宙器官としての樹木」という章で「私たちの身体もその70%が水であり、歩く水袋のようなものだが、樹木の場合はことさらに水が地面から大きく伸び上がり、手を一杯にひろげて自らを成就するような垂直性の歓びを表現しているように感じられる」と人間も樹木も組成しているのは水であると言っている。竹村氏は春先、太い樹木に耳をあてるとゴボゴボと音をたてて水が立ち昇ったというが、僕が子供の頃聴いた大樹の音は、まるで雨期の後の急流の川のようにゴーっという轟音で、動かない大樹が生き物として急に怖い存在に変わり、近づけなくなった記憶がある。本書は植物という形を借りた宇宙的知性と人間との関係性について新たな文明の尺度を我々に教えてくれる。
編集長 尾中謙文
Text by onaka
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2007.07.25 Wednesday
世界で最も有名な炭酸水、コカ・コーラは1885年アメリカの薬局で生まれた。その時代よくあった、いんちき売薬時代の万能薬の一つとして。様々な時代を経て商品は形を変え、世界最大の消費量を誇る清涼飲料水になった。なにしろ一秒間に4万本が飲まれているのだ。コカ・コーラは1929年、タイムズスクエアの巨大なネオンサインに登場したのを始めとして、マーケティング、PR、プロモーション、デザインなど広告のあらゆる原型を創った。広告に登場したスターはクラーク・ゲーブル、グレタ・ガルボ、ケーリー・グラントなどトップスターばかり。第二次大戦中は、アイゼンハワーが政府の金で、世界中の兵士たちに100億本のコカ・コーラを提供し、毎日のように飲み続けて中毒になった帰還兵によって、戦後のコカ・コーラ需要は爆発的に拡大した。その後TVCMを中心にした世界の炭酸水市場戦争は、コカ・コーラとペプシの泥沼の戦いに突入していく。
編集長 尾中謙文
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2007.07.24 Tuesday
「風姿花伝」は父、観阿弥の教えを世阿弥がまとめた室町時代の能の聖典である。時の流れには男時女時(おどきめどき)があると観阿弥は言う。男時は万事つきに恵まれていて、何をやってもうまくいく時である。逆に女時はどんなに努力してもうまくいかない、つきに見放されている。こうした努力と関係ない、時の巡り合わせを良く理解し、時に無理して逆らわず、ここぞという時が来たら溜めていたエネルギーを一気に出すことが懸命だと言う。「この緩急の妙が、時のつきを自分に引き寄せることにつながる」といった「能」の奥義だけにしておくのはもったいない秘伝の数々が本書には満載だ。いかに大衆を魅了し、花のある存在でありつづけるかは今も昔も変わりがない。
編集長 尾中謙文
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2007.07.23 Monday
80年代から90年代にかけて、老若男女の多くはホイチョイにお世話になった。なにしろ笑いのセンスがいい。馬場氏はホイチョイプロダクションズのメンバーとして「人を楽しませるとはこういうこと」の見本を漫画を通じて、長年休まず発信し続けた類い稀なる才能の持ち主だ。その馬場氏が3人のプロデューサーについて語る話だから面白くない訳が無い。本書の主人公、電通ラテ局の小谷正一、小谷の部下の堀貞一郎、ウオルター・ディズニーの3人は、見えない糸で繋がっている。ラジオ・テレビ・万博・ディズニーランドなど、昭和のエンターテインメント・ビジネスの夜明けとなる初めの一歩が本書には標されている。昭和生まれの人には懐かしく心地良い時代のエピソードが満載だ。
編集長 尾中謙文
Text by onaka
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2007.07.20 Friday
米国では富の60%がたった5%の富裕者に集中している一方で、貧困層は30%という超格差社会だ。しかし日本もやがてこうなる可能性がある。アメリカンドリームと金権の体質に、1980年代以降起きた日本のバブルと金権の体質が酷似しているからだ。特に「メイキングマネー」こそが尊敬に値する米国文化はここ10年で確実に日本にも浸透した。「お金で買えないモノは無い」という言葉に反応する若者はあとを断たない。しかも富と権力の集中で、再配分される富は小さくなる一方で、格差の進行を止める手立ては今のところ無い。原因は実利を追い求める米国の学校教育にある。学歴と所得水準との関係は疑うべくもないが、情報技術革新や労働単純化が労働格差に拍車をかけているのだ。デジタルデバイドは日本でも始まっていて、上場企業でパソコンを扱えない人を探すのは難しい。よくできた共産主義的日本社会が確実に崩壊しつつある中、「ノブレスオブリージュ」のように、富を持つ者が貧困層にしなければならない義務や、貧富に関係なくモラル、プライドを持ち、感動したり体験することで、一度しかない人生を味わうことに気づかせる教育こそが必要なのだ。
編集長 尾中謙文
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2007.07.19 Thursday
元ファーストレディにして弁護士というダブルメジャーのヒラリーと、黒人にして女性スタッフというダブルマイノリティのライスが互角に扱われるのは、米国ならではの実力主義ということなのか。スタンフォード大の教授だったライスが国務長官になっていくサクセスストーリーはとてもエキサイティングだし、ヒラリーがビル・クリントンをつくり米国を裏から動かしていたのは周知の事実だ。しかし本書で秀逸なのは、むしろクリントンに関する詳細なバックサイドストーリーだ。「クリントンの父は彼がまだ母親の胎内にいるとき、交通事故で亡くなった。母は看護婦だったが、看護婦の高等教育を受けるため、一歳になった息子をガソリンスタンド兼よろず屋を営んでいた祖父母に預けた。4歳のとき、母はセールスマンをしていたロジャー・クリントンという男と再婚する。しかし新しい夫は酒乱で暴力をふるう男で、クリントンと幼い弟は毎晩聞こえてくる両親の喧嘩に耐えていたという」大統領の知られざる事実が本書で十分味わえるはずだ。
編集長 尾中謙文
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2007.07.17 Tuesday
ナイキがコストダウンのため、途上国の工場で子供を奴隷のように働かせている、というニュースが世界中を駆け巡ったことはまだ記憶に新しい。中国とインドを除くほとんどの途上国は、グローバル化による恩恵を得ていない。ではグローバリゼーションは先進国と途上国に何をもたらしたのか。先進国だけが利益を享受し、貧困が病気のように途上国に蔓延する現実を直視しないかぎり、答えはでない。著者のスティグリッツ氏はノーベル賞を受賞した経済学者だ。「多くの場合、開発の段階がかなり進んでからでないと、途上国企業が外国企業と競争するのは不可能だ。各国が比較優位を生かすよう努めれば、既存の資源からもっと多くの製品を生産できる、と自由貿易擁護派は主張する。しかし、途上国がどれだけ早く成長できるかは、どれだけ早く先進国の知識と技術を習得できるかに左右される」と知識格差を縮小することが最も重要だと言う。しかし、日本もうかうかすると、インフラがあるのに知識格差で貧富の差が拡大する、ミクロ経済の現代病が蔓延するかもしれない。
編集長 尾中謙文
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2007.07.13 Friday
カムチャッカ半島でクマに襲われ逝去した、写真家・文筆家の星野道夫氏の本を時々読み返すと、星野氏がまだどこかで生きているような気がする。時空を超えた瑞々しさと、正直で清涼感に溢れた文体に触れると、アラスカの蒼い空のように、心が清々しい気持ちになる。星野氏による正確なドキュメントは、時に震え上がるような未来を暗示する。核実験による放射能がカリブーを侵し、それを食べたエスキモーの身体から放射能が見つかるのだ。放射能がゆっくり全生態系を侵すという、不安な未来を予見しながら、どうすることもできず、ただそこを去って行くだけの、エスキモーより先の見えない不安な自分の未来を静かに内観している。本書を読むと、CO2が増え、放射能に汚れた大気とともに、このまま生き続けていることが、明らかに地球的生き方に逆行している、という感情が沸々と湧き上がって来るのだ。
編集長 尾中謙文
Text by onaka
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2007.07.12 Thursday
その昔、上野の某ジャズ喫茶でリクエストをすると、その頃僕にはまだジャズの知識もセンスも無く、マスターはなかなかリクエストをかけてくれなかった。後に、ジャズ喫茶で曲をかける順番には、場の空気を読んだセンスが大切だということを知った。そんな難解なジャズ入門は、ショップのレコメンを読んで、まずレコードを買うことで始まった。ところが聴いてみて驚いたことに、書く人のセンスによって、自分を鏡に映すように、評価とレコードの内容がくい違うことに気が付いた。ジャズを知ることは、人生と一緒で失敗の連続だった。しかし、ジャズ通の選者が気合いを入れて書いたレコメンデーションとなればちょっと違う。寺島氏はジャズ喫茶を自ら経営し、スイングジャーナルにジャズ論を書き、行間からスイングが漂う、愛すべきジャズフリーカーだ。ジャズを聴いたことが無い人にも、是非、聴く前に読んで欲しい一冊だ。
編集長 尾中謙文
Text by onaka
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