2007.04.13 Friday
「何しろコンペはほとんど連戦連敗といっていいほど惨澹たる状況なのである」今や世界的建築家となった安藤忠雄の本質は「創造は逆境の中でこそ見出される」という序章に集約されていると言ってよい。スタッフは肉体的、精神的に疲弊しきって、ギリギリの緊張状態で仕事をやっているが、不思議なことにコスト的・条件的に苦しい時の方が良い建築が生まれるのだという。「コンペを通じて、自らの建築の姿勢を問い直し、その意思を確かめる」天才安藤らしい一言だが、優れたコンセプト、アイディアを生み続ける才能も然ることながら、倒れても倒れても、コンペという闘いに立ち向かい続ける挑戦心こそが天賦なのだ。
編集長 尾中謙文
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2007.04.12 Thursday
骨董に手を出し失敗したことがある。モノの背景、歴史、価値、値踏みなど全く知らないまま、ただ気に入り買ってしまったが、後で良く出来た贋作であることがわかった。残念な思いというより、常に真剣勝負をする目利きの人はどのように修練し、場数を踏んだのかが知りたかった。白洲正子は夫、次郎の妻という範囲を超え、青山二郎という骨董の巨人に価値を学び、人生の智慧を学び、審美眼を身に付けた。外見に惑わされない、目に見えないものを見る力を学びたいと思う時、本書を読むと原点に戻れる気がするのだ。
編集長 尾中謙文
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2007.04.11 Wednesday
千住博の絵画に、なぜ神を感じるのか。おそらくは一瞬でも千住氏の死生観や美意識に触れることができるからではないか。本書からは千住氏の美の誕生の瞬間や美を感じることで、生きる喜びを得る心の暖かみが伝わって来る。千住氏の美の繊細かつ大胆なバイブレーションの振幅と太い生命力とがスパイラルする。生命への畏敬の念、人間への尊さ、イマジネーションの大切さが、千住氏の芸術観を通して味わえる。歴史を直視し、時を超え、他者を受け入れ「生きる力を回復するものを美が与えてくれる」芸術を考える良書だ。
編集長 尾中謙文
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2007.04.10 Tuesday
パトロンの役割はとはなんだろうか。もしパトロンがいなかったら、芸術家が活躍する場は間違いなく制限されたはずだ。真の芸術家を見抜き、意図を理解し、支援するコレクターという行為自体、高貴なるものが最も力の無いものを助ける、ノブレス・オブリージュのような精神と似ているといったら言い過ぎだろうか。いや知的、精神的活動が主たる芸術家に、力が無いわけがない。ヴァザーリは「芸術家列伝」の中で、ラファエロが時の最高権力者である教皇と対等に話をしていた様子を残している。教皇庁に貴族が出入りするだけでも恐れ多い時代に。本書は、富と権力を持つパトロンの存在が芸術に与えた影響を、ルネッサンスから現代まで緻密に描いたユニークな美術史だ。
編集長 尾中謙文
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2007.04.09 Monday
我々は常に偶然と関わり合っている。現実には確実なものと不確実なものが入交じっている。物事は常に流動的で、論理的な説明のつかないマクロ現象やミクロ現象も多い。複雑性は、この物理学的な多量の相互作用と干渉から生まれた。生命の自己組織化、知による社会の生産。個と社会、主客融合、秩序と無秩序の相互作用。全体は部分の中にあり、部分は全体のすべての情報を含んでいる。細胞や遺伝子情報などがそうだ。複雑性については近年様々な研究が進んでいるが、僕はエドガール・モランをお薦めする。
編集長 尾中謙文
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2007.04.06 Friday
昔むかし、一日一善という習慣が日本にはあった。何か一つだけでも善い行いをしようという日本人の倫理慣習の現れだった。吉田松陰は佐久間象山に蘭学を学び、孟子を解し説き、日本の改革を志した。下田事件の首謀者として処せられたが、高杉晋作を育て、潔さは多くの国士を奮い立たせた。本書は松蔭が一人の人間として確立した価値観、倫理観の集大成である。一日にひとつ、365日に編している点にも実直さを感じ好感が持てる。本書に「声聞情に過ぐるは、君子之れを恥ず」とある。評判が実態より高ければ、立派な心ある人はこれを恥じるという意味だ。名声や評判が人を惑わすのは、今に始まったわけではない。
編集長 尾中謙文
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2007.04.05 Thursday
著者は非線形力学の第一人者で、以前紹介したダンカン・ワッツと「スモールワールド」を著している。人が集団になるとなぜ様々に同期を始めるのか。ストロガッツによればヒトの身体は巨大なオーケストラに似ているのだという。ヒトの身体には腎臓や肝臓があり、それぞれが何千もの細胞振動子から出来上がっている。これらをコントロールしているのが、脳内にある数千個の時計細胞だ。この神経集団が同期して、24時間の生化学ビートを保ち、各臓器でタンパク質をスケジュール通りに生産している。これはヒトの行動にも共通している。睡眠や覚醒、認知行動にいたるまで、複雑に同期しているのだ。本書ではミクロからマクロまで実験や事象を通じた様々な同期現象を、一般人にもわかりやすく解説している。
編集長 尾中謙文
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2007.04.04 Wednesday
日本各地で地震が起きる度に、後藤新平のような政治家がいたらと思う。後藤は医師から内務省官僚となり、台湾民政長官、満鉄総際、東京市長を歴任した。台湾では行政組織のスリム化をするため一気に1080人の役人をクビにした。関東大震災後、政治生命を賭け、幻となった帝都復興計画を立てる。計画は大胆かつ壮大、国家予算の二倍以上を要したが、震災、防火へ完璧なまでに対応した都市計画で、昭和天皇をして非常に残念と言わしめたものだった。かつて日本にはこんな政治家が存在したのだ。
編集長 尾中謙文
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2007.04.03 Tuesday
米国ではホームスクーリング(自宅学習)を行う子供が100万人いる。自殺する子供の大半は、貧困家庭ではなく、裕福な家庭である。監禁、脅迫、無意味な競争が闊歩する学校制度に耐えられない子供は多い。本書では、30年間教師を勤め、ニューヨーク州最優秀教師賞までもらったガット氏が、子供たちに蔓延する暴力や薬物依存、十代の妊娠といった社会問題の中で「正しい教育とは、子供たちのやり方を尊重し、彼らにそのための場所と時間を与えることだ。間違った教育とは、奇妙で、複雑で、恐ろしいものである。」と教育システムを痛烈に批判する。「米国経済は1960年半ばから大きく発展してきたが、労働者が実際に使える賃金は30年前より少ない」我々は、この先子供たちに明るい未来があると言い切ることができるのだろうか。
編集長 尾中謙文
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2007.04.02 Monday
青山氏の「アガスティアの葉」「真実のサイババ」を読んで無計画にインドに行ってしまった人は、案外多いのではないか。真意は置き、青山氏の本には、何かとりこにしてしまう力がある。僕はサイババとアーユルヴェーダを知るきっかけになり、インドに行ってガネーシャ像まで買ってきてしまった。本書はそんな笑いを吹き飛ばしてしまう悪夢のような話だ。本書はこれまでの奇跡や栄光と違い、青山氏の苦悩が満ち満ちている。本当にノンフィクションなのだろうか。いや、フィクションにしてはディテールがあまりにぎこちなく、細かすぎる。サイババとは何者なのか。その答えが得られないまま、気がつくと読み返してしまうのだ。
編集長 尾中謙文
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