BLOG | WHITEHEAD March:2007

ぼくの本棚 53:「奇想の系譜」「奇想の図譜」 by 辻惟雄

2007.03.30 Friday

江戸ブームが続いている。もはやブーム(一過性熱)ではなくトレンド(時代風波)といった方が正しい。なぜか。遥か江戸時代、当代きってのイラストレーター達が凌ぎを削って美の本質を極め、文化は限りなく豊かだった。世界中の画家に影響を与えたという事実、史実も日本人にとっては、たまらなく魅力的に見える。もちろん「本物」は海外のコレクターの手で大切に保管されていて、大美術展でもなければ、拝めないものが大半だ。世界中の本物の目利きに見いだされたアートこそ、江戸美術の真骨頂であり、グローバル・カルチャーの発信源なのだ。では日本アートの目利きの役割とは何なのか。本書の初版は1970年。これをいま見れる日本の豊かな出版業界に感謝しなければならない。江戸美術を楽しみながら学ぶことができるのは、本書をおいて見当たらないからだ。

編集長 尾中謙文








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ぼくの本棚 52:ソシュール by 加賀野井秀一

2007.03.29 Thursday

「前向きで検討します」という政治家の言葉が、実は「何もしない」ことだったり、「今日は暑いね」という言葉が「窓を開けてくれないか」という要請だったりする。この手の多義的な意味を持つメタ言語は、我々のまわりにはたくさんある。言葉の本質的な意味が、文脈によってコノテーション(共示)を起こすわけだ。さらにソシュールは音素(言葉を形づくる音のエレメント)に示差的・関係的な本質があると考えた。なんとなく耳心地良い会話は、この音素に基づく音声学がベースになる。「マイ・フェア・レディ」でヒギンズ教授が、イライザの田舎くさい発音を矯正すると、オードリー・ヘップバーンがとたんに知的に見えてくる「あれ」だ。キャッチコピーなどで言われる音韻論とは違うが、ここではそんなこ難しいことは抜きに、言葉の意味的本質がこんなに楽しいものだったのか、という発見と感動を得られるだけで十分なはずだ。

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 51:プラトンのオルゴール インダストリアリズムの終焉とデザインの使命 by 川崎和男

2007.03.28 Wednesday

「デザイナーは喧嘩師でなければならない」デザイナー・医学博士の肩書きを持つ川崎氏は、事故で車椅子生活を余儀なくされた人だ。事故で片肺が潰され、一部脳梗塞で視野狭窄だが、作品は事故前より光り輝いている。川崎氏の「造形の基本形態は、プラトン的形態形素としての立方体だ」が美しくないものを徹底して排除する川崎流美的哲学なのだ。「精神の中に快適さという機能性」を持ち込み、ひたすら毒をまき散らしながら、ストイックにイマジネーションの痕跡をカタチにする。「そして『何が美しいのか』を生涯、人は追い求めることが生きる証」という川崎氏は常識を覆したデザインを、今日も生み続けている。

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 50:アントニ・ガウディとはだれか by 磯崎新

2007.03.27 Tuesday

スペインのバルセロナを訪れた人に印象を聞くと、ほとんどがガウディの設計したサグラダ・ファミリア教会を挙げる。尖塔群によって構成された、巨大なロケットのような建築物は、未だに完成されていない。建築物というよりは、有機体のような、うねりの波の連続が形を創った、過剰な美しさがある。何故か見ているだけで、ゾクゾクするような感覚が沸き上がる。ガウディのデザインに共通するのはSF映画で見たような奇妙な記憶回帰と、バウハウス建築の計算された機能美を鼻で笑ったような、不思議な幾何学形態をした回転放物体だ。本書は日本を代表する建築家・磯崎氏による40年にわたる研究のエッセンスが溢れている。多様な解釈は遠かったガウディを少し引き寄せた気もするが、闇の中の本質は不完全で、絡み合った糸は未だ解けてはいない。

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 49:神の交渉術 by スティーブ・ジョブズ

2007.03.26 Monday

本書は、はったりと強気でアップルを世界NO.1ブランドに押し上げた、ジョブスの笑えて、自己啓発になる交渉術(?)だ。周囲と合わせ、予定調和を狙う日本文化と違い、相手の欠点を探し、威嚇し攻撃し、勝つための強いカードを持ち続けることこそが交渉、と考えている相手とは、普通に闘っては勝てないことがよくわかる。「棍棒を突きつければ敵も協力者になりたがる」交渉術は、下手な自己啓発開発向上セミナーよりわかりやすく、ゲーム理論を地でいっている。これを100回読んだ方が、確かに血湧き肉踊るナイスファイトなゲームになる。「あきらめないこと」で恥も外聞も捨て、意地汚いまでに潔悪い、あきらめの悪さに徹すること。この神をバイブルにすると「正しい答え」より「目立つ答え」を言う人になれるし、「正義は最悪の武器」なので、悪いことは見えなければ、わからないと言える人にもなれる。さて、あなたならどんな神を味方につけるだろうか?

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 48:日本はなぜここまで壊れたのか by マークス寿子

2007.03.23 Friday

海外移住者が増えている。日本に魅力が無くなったのか。目を背けたくなるような事件が頻発し、多様な不安と共存せざるを得なくなっている日本。金がすべてという価値観と、みかけが大切というモラルに、品格のかけらも無いブランド狂奔。お笑いの少子化対策。イラク戦争より多い自殺者。本書は目で文字を追いながら、心と耳が痛い体験をさせられる。しかし逃げてはいられない。日本で暮らして行く以上、少しでも住みやすく、気持ちの良いところにしたいと願うのは僕だけではない。本書はなんとなく不安に感じながらも、先送りしてきた課題を著者の細やかな視点で、鮮やかに一刀両断にしてくれる。すべての政治に関わる人、これを読んですぐに走れますか?そういう人を選挙で選べる目がありますか?

編集長 尾中謙文

Text by onaka

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ぼくの本棚 47:苔のむすまで by 杉本博司

2007.03.22 Thursday

NY在住のアーティスト杉本氏はただものではない。一万年以上の歴史観を持ち、神とは何かについて人に伝える術を知っている。たった一つの言葉で呪縛が解かれたり、ビジュアルとの出会いで閃きを与えられたりすることは、一生の間に偶然、何度か思いがけずある。杉本氏の中にはアートが生まれる根源的な時代、場所、人の位相の扉が多元的無数にあり、今そこに存在している。「最も古いものが、最も新しいものに変わる」のは、そのせいだ。杉本氏の生み出すものは境目が無く制限も無い。美しいものが必然的に美しくある。しかし、その厳しく隙間の無い美とは対称的に、言葉にならない優しい暗黙知が読後に薫る。美の心地良さ、暖かい安堵感を陰陽に生み出すアーティストを、杉本氏以外に僕は知らない。

編集長 尾中謙文

Text by onaka

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ぼくの本棚 46:木を見る西洋人 森を見る東洋人 by リチャード・E・ニスベット

2007.03.20 Tuesday

人の思考の本質は本当に世界共通ではないのだろうか。よく米国人は大雑把だとか、中国人は商売上手だとか、韓国人は、北朝鮮人は、関西人は、京都人は、など地政学的な意味や、土地や国に依存するイメージを「人」に持つことが多い。でも本当にそうなのだろうか。本書は思考の違いが生まれた社会的背景のデータを科学的態度で解析している。「なぜ古代中国人は、代数や算術には秀でていたのに、ギリシア人が得意とした幾何学に弱かったのか」本書は長年にわたり歴史学者、心理学者、科学者、哲学者が抱いてきた、思考と社会と時代の関係性における謎にチャレンジし、スケール感のある、知的好奇心をそそる内容に仕上がっている。

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 45:「出会い」の不思議 by 河合隼雄

2007.03.19 Monday

人生には多くの出会いがある。それは言葉だったり、人だったり、本だったり、家族だったりする。それぞれは直線上で出会う、運命的幸運なものばかりではなく、道草や無駄話をしながらの偶然の発見も多い。出会いはその質により、深い共時性(シンクロニシティ)を生む。河合氏のシンクロは東洋と西洋、心理学と宗教、精神と身体など多様性をきわめ、因果関係の探求は深く、研澄まされている。しかし、そこから響く氏の言葉は限りなく暖かい。不思議なのは「出会い」なのではなく、河合氏自身のことなのかもしれない。氏の言葉には、「出会い」の曖昧さを認めながら、しっかりとした「未来」を感じるからだ。

編集長 尾中謙文

Text by onaka

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ぼくの本棚 44:成功はゴミ箱の中に by レイ・クロック、ロバート・アンダーソン

2007.03.16 Friday

紙コップのセールスマン17年、ラジオ局のピアノ弾きのアルバイト、マルチミキサーの会社オーナー。世界最大のハンバーガーチェーン・マクドナルドをつくったレイ・クロックの前半生の職業だ。レイはマクドナルド兄弟のレストランに出会った時、メニューがたった二つしかないレストランが、全米の主要道路に次々にできて、お金をどんどんかきだしてくれるイメージが脳裏によぎった。「未熟でいるうちは成長できる。成熟した途端、腐敗が始まる」を座右の銘にするレイにはこれだけで十分だった。「勇気を持って、誰よりも先に、人と違ったことをする」この時レイは52歳で、糖尿病と関節炎を患い、胆嚢のすべてと甲状腺の大半を失ってのスタートだった。成長可能性とやる気さえあれば、どんなビジネスでも、いつかは成功する美談のような話だ。しかし、事業の将来性を見抜く力となると別だ。成功と失敗を繰り返しながらも、常に困難を乗り越え、チャンスに柔軟に適応する楽観性と成功イメージを保ち続ける能力が必要だ。「誰よりも未熟であることを自覚し続けること」慧眼とはそういうものだ。

編集長 尾中謙文

Text by onaka

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